相手の竹刀を「崩す」二大テクニック!剣道の技「払い」と「すりあげ」の決定的な違いと使い方
はじめに:なぜ「払い」と「すりあげ」が有効なのか?
剣道において、自分の打突を有効にするためには、単に早く打つだけでなく、相手の構えを崩し、一瞬の隙を生み出す技術が不可欠です。そのために使われるのが、相手の竹刀に接触してその動きをコントロールする**「払い(はらい)」と「すりあげ(すり上げ)」**という二大テクニックです。
どちらも相手の竹刀を動かすという点では共通していますが、その目的、竹刀の接触面、そして技を出すタイミングには決定的な違いがあります。この違いを理解し、使い分けることが、攻めのバリエーションと守りの安定性を高める鍵となります。
この記事では、剣道の技**「払い」と「すりあげ」について、その基本的な動き**、決定的な違い、そして効果的な使い方を徹底解説します。これらの崩し技をマスターし、一本を取るための**「引き出し」**を増やしましょう。
1. 剣道の技「払い」の基本と目的:攻めて相手の中心を奪う
「払い」は、主に自分から積極的に仕掛け、相手の竹刀を**「叩き落とす」**ように動かして、中心(正中線)から外すための技です。
「払い」の3つの特徴
目的:攻めと崩し
相手の竹刀を強く横に払いのけ、中心線をガラ空きにする**「隙」を作り出すことを目的とします。自分の打突に繋げるための「捨て身の攻め」**としての意味合いが強いです。
動きと接触面:
竹刀の**「表(おもて)」または「裏(うら)」から、相手の竹刀の「表」または「裏」**の鎬(しのぎ)を、叩き切るような力強い動きで払います。
接触面は、自分の物打(ものうち)付近と、相手の中結い(なかゆい)付近がぶつかることが多いです。
技の種類:
払いによって開いた面や小手を打ち込む**「払い面」「払い小手」として使用されます。特に、相手の竹刀の下を払う**ことで、一気に面を開かせる技が有効です。
2. 剣道の技「すりあげ」の基本と目的:守りから攻めへ転じる
「すりあげ」は、主に相手の打突に対応し、竹刀を**「受け流す」**ように動かして、相手の力を利用して反撃に転じるための技です。
「すりあげ」の3つの特徴
目的:防御と反撃
相手が打ってきた瞬間、その力と方向性を利用して、竹刀を上にすり上げて受け流し、相手の打突を無効化します。同時に、相手の体勢が前に崩れた隙を捉えて、自分の面や小手に繋げる**「応じ技」**としての側面が強いです。
動きと接触面:
自分の竹刀の**「鎬(しのぎ)」の面を、相手の竹刀の「鎬」**の面に接触させ、**すり上げる(こすり上げる)**ように動かします。払いのように強く叩くのではなく、流れに乗せるような動きです。
接触面は、お互いの竹刀の**剣先(けんせん)**に近い部分で行われることが理想です。
技の種類:
相手の面打ちをすり上げて面を打ち返す**「すりあげ面」、小手をすり上げて面を打ち返す「すりあげ小手」など、「応じ技」**として多用されます。
3. 「払い」と「すりあげ」の決定的な違い
両者の最も重要な違いは、**「技を出すタイミング」と「力の方向性」**にあります。
項目 | 払い(Harai) | すりあげ(Suriage) |
主な目的 | 相手の中心を奪う(攻め) | 相手の打突を受け流す(守りからの反撃) |
力の加え方 | 自分から横方向に叩き落とす | 相手の力を利用して上方向にこすり上げる |
技を出すタイミング | 自分から仕掛ける時(出端) | 相手が打ってきた瞬間(応じ) |
打突への繋がり | 崩した後に、自分の意思で打ち込む | 受け流した後、反射的に打ち返す |
力の強さ | 強い力が必要(相手の構えを力で崩すため) | 弱い力でよい(相手の力を利用するため) |
決定的な違いのまとめ
払いは「先手の技」: 自分が有利な状況を作り出すために、自分から相手の竹刀に作用させます。
すりあげは「後手の技」: 相手の動き(打突)を待って、その力を利用して反撃に転じます。
4. 効果的な「使い分け」のポイント
どちらの技も、**「相手が動く一瞬の隙」**を逃さないことが成功の鍵です。
使い分けのポイント1:相手の竹刀が強い時
使用する技:払い
理由: 相手の竹刀が中心に強く据えられている(構えが強い)場合は、すりあげでは受けきれません。強い払いで無理やりにでも中心を外す必要があります。
使い分けのポイント2:相手が打ってきた時
使用する技:すりあげ
理由: 相手の打突の勢いをそのまま利用してすり上げることで、最小限の力で大きな効果が得られます。特に、相手が強く踏み込んできたときほど、すりあげが鋭く決まります。
使い分けのポイント3:試合終盤で一気に勝負を決めたい時
使用する技:払い
理由: 失敗のリスクはありますが、一瞬で相手の守りを破壊し、面を打ち込む払い技は、ここぞという時の攻めの一手として非常に有効です。
おわりに:攻めと守りの「引き出し」を増やす
**「払い」と「すりあげ」**は、単なる崩し技ではなく、相手との駆け引きを支配するための重要な戦略です。
「払う」ことで攻めの幅を広げ、「すりあげる」ことで守りから反撃への機会を得る。この二つの技のタイミングと目的の違いを稽古で意識し、正確に使い分けることで、あなたの剣道はより深く、立体的なものへと進化するでしょう。