剣道で使う「下段の構え」の解説
**下段の構え(げだんのかまえ)は、「五行の構え」の一つで、「地の構え(ちのかまえ)」「土の構え(つちのかまえ)」**とも呼ばれる構えです。
中段の構えが攻防一致の基本形であるのに対し、下段の構えは、主に防御や相手の出方をうかがうための構えと位置づけられています。現代の試合剣道で使われることはほとんどありませんが、日本剣道形(3本目と6本目)には登場し、剣道の理合いを学ぶ上で重要です。
1. 下段の構えの基本的な形
下段の構えは、基本的には中段の構えから竹刀の位置を下げた形をとります。
構え方のポイント
足構え・体構え: 中段の構えと同じで、右足前の自然体で構えます。竹刀の握り方も中段と同様です。
竹刀/剣先(切先)の位置:
中段の構えから竹刀を下げ、剣先(切先)の延長線が、相手の両膝の中間、または膝頭の高さにつくように構えます。
水平よりも下方へ向けた低い位置に竹刀を構えるのが特徴です。
左拳の位置: 中段よりやや低い位置になりますが、体の中心線を保ち、いつでも攻撃できるようにゆとりをもって構えます。
別の呼び方と意味
守りの構え: 相手の中心を竹刀で守り、安易に打突させない防御的な性質を持つためこう呼ばれます。
地の構え・土の構え: 五行思想の「地」や「土」が持つ、安定感や変化を待つという性質に由来します。
2. 下段の構えの特性と意味
下段の構えは、相手に精神的な圧力をかけ、特定の動きを誘発する効果を持っています。
メリット(強み)
防御的な圧力:
竹刀の剣先が低い位置にあるため、相手は自分の手元(小手)や足元を狙われるのではないかという心理的な恐怖を感じやすくなります。これにより、相手は安易に間合いに入り込みにくくなります。
相手の打突を妨害:
低い位置にある剣先が邪魔となり、相手が上から面を打ち込もうとする際の体勢や軌道を崩す効果があります。
攻撃への移行:
「守りの構え」と呼ばれますが、実際には相手の変化に応じて直ちに攻撃に転じることが可能でなくてはなりません。特に、相手が警戒を解いて攻め込んできた瞬間に中段に戻したり、切り上げたりする技に繋げやすいです(古流剣術では相手の下半身を狙う攻撃への移行にも使われました)。
デメリット(弱み)
上半身の防御の不足:
中段の構えと比べて剣先が低いため、相手の面に対する防御力が低くなります。相手は竹刀を上から被せるように攻め、面を打ってくる可能性が高まります。
攻撃開始の遅延:
面や小手を打つためには、竹刀を低い位置から一旦大きく振り上げ直す必要があるため、打突までの時間がかかりやすいという欠点があります。この機敏さの欠如が、現代剣道の試合で使われない最大の理由です。
3. 現代剣道での位置づけ
現代の試合剣道においては、下段の構えは、上段や中段に比べて打突部位ががら空きになるリスクが高く、機動性に劣るため、ほとんど使われることはありません。
しかし、剣道の稽古や剣道形においては、以下の目的で重要です。
理合いの理解: 相手をいかにして崩し、防御的に構えた相手からどう攻め口を見つけるかという攻防の理合いを学ぶために不可欠です。
変化への対応: 常に中段でいるだけでなく、不利な状況や相手の構えに応じて臨機応変に構えを変化させることの重要性を理解するために役立ちます。