剣道で使う「中段の構え」の解説
**中段の構え(ちゅうだんのかまえ)**は、「五行の構え(中段、上段、下段、八相、脇構え)」の中で、最も基本とされ、現代剣道において最も多く用いられる構えです。
その特徴は、攻撃と防御のバランスが最も優れている点にあり、「常の構え(つねのかまえ)」「正眼の構え(せいがんのかまえ)」とも呼ばれます。
1. 中段の構えの基本的な形(身構え)
中段の構えは、ただ竹刀を構えるだけでなく、体全体が「いつでも動ける自然体」であることが重要です。
身体の構え
足構え:
自然体に立った状態から、右足を半歩前に出します。
左右の足の幅は、およそ握り拳一つ分程度に開けます。
前後の開きは、右足のかかとの線上に左足のつま先がくるようにし、左足のかかとはわずかに浮かせます。
体重は両足に均等にかかるようにし、両膝は曲げすぎず伸ばしすぎず、自然に保ちます。
体構え:
背筋を伸ばし、顎を引き、自然体で構えます。
肩や肘の力を抜き、脇は軽く締めて卵を挟む程度のゆとりを持たせます。
竹刀の構え
竹刀の握り方(手の内):
左手は柄頭(つかかしら:柄の端)いっぱいにかけ、小指、薬指、中指の3本をしっかりと締め(小鳥を握るように強すぎず弱すぎない力で)、人差し指と親指は軽く添えます。
右手も同様に軽く握り、右拳は鍔(つば)に触れるか触れないかの位置に保ちます。
左拳の位置:
左の拳をへその前(丹田の前)に、体から握り拳一つ分から一つ半ほど離して置きます。
剣先(切先)の位置:
竹刀の剣先を、相手の喉元(のど元)、または**顔の中心(両眼の間や左目)**をめがけてまっすぐ向けます。
2. 中段の構えの特性と意味
中段の構えが基本とされる理由は、その攻防における高い機能性にあります。
① 攻防一致の理想的な構え
中段の構えは、攻撃にも防御にも最も対応しやすい形です。
攻撃: 剣先が相手の急所(喉元)を狙っており、そのまま一歩踏み出せばすぐに面、小手、突きといった有効打突に移行できます。
防御: 剣先が相手の中心を守っているため、相手の攻撃を誘い出し、応じ技(相手の技に合わせて打ち返す技)を出すのにも都合が良い構えです。
② 不離五向(ふりごこう)の原則
剣道の構えで特に重要視される心構えが「不離五向」です。中段の構えはこの原則を実践するのに最も適しています。
要素 | 意味 |
目 | 相手の目を中心に、全身を広く見ること(遠山の目付け)。 |
剣先 | 常に相手の中心から外さないこと(正中線を守る)。 |
臍(へそ) | 常にへそ(腹部、丹田)を相手に向けること。 |
足 | 常に相手に向かい、いつでも動ける足構え(歩行のごとく)。 |
心 | 常に充実した気勢と攻めの気持ちを相手に向けること。 |
中段の構えは、これら「目・剣先・臍・足・心」の五つを相手から離さず、**常に優位な立場(攻め)**を保つための土台となります。
③ 正眼の構え(せいがんのかまえ)
中段の構えは、古流において**「正眼(せいがん)の構え」**とも呼ばれました。
流派や指導者によっては、剣先を向ける位置の違いによって、正眼(喉元)、晴眼(両目の間)、青眼(左目)、星眼(顔の中心)、**臍眼(へそ)**の五種類に分けて指導されることもありますが、現代剣道ではこれらを総称して「中段の構え」としています。
この構えは、全ての構え(上段、下段など)への移行がスムーズにできるため、剣道の技の根幹をなす最も大切な構えと言えます。