剣道で相手の技を誘導する方法:「攻め」と「崩し」の極意
剣道において相手の技を誘導することは、単に相手の出方を待つのではなく、こちらから意図的に隙を作り出したり、相手に心理的・物理的な圧力をかけたりして、特定の技を打たせる高度な戦術です。
技を誘導できれば、「後の先(ごのせん)」の応じ技(抜き技、返し技など)を極めて効果的に決めることが可能になります。
1. 相手の心理と体勢を崩す「攻め」による誘導
技の誘導は、竹刀の操作だけでなく、間合いと気迫によって相手の心を乱すことから始まります。
常に「打てる」プレッシャーを与える
攻め足の活用: こちらから送り足で間合いを詰め、相手に「今打たなければ打たれる」というプレッシャーをかけます。相手は焦りから、最も得意とする、あるいは最も打ちやすい(と錯覚する)技を出さざるを得なくなります。
剣先の圧迫: 自分の剣先(けんせん)を、相手の喉元や面に向けて強く圧迫し続けます。相手はこれに耐えきれず、圧力を外しにかかる動作(竹刀を払う、上に上げるなど)を起こすことが多く、その起こり頭を狙って誘導します。
誘いとしての「一瞬の隙」
誘導の最も典型的な方法は、「ここを打て」と相手に思わせる一瞬の隙を作ることです。
剣先をわずかに下げる: 剣先をほんの少し(数センチ)下げることで、面ががら空きになったように見せます。相手は「今が面を打つチャンスだ」と誤認し、面を打ってきます。その面打ちを読んで、抜き胴や返し胴で仕留めます。
手元を上げる: わずかに小手の手元を上げることで、小手を打たせるよう誘導します。この手元が上がったところを狙って、出小手を打つ、あるいは小手を打ってきたところを小手抜き面で反撃します。
2. 竹刀操作による「崩し」からの誘導
竹刀を積極的に操作し、相手の構え(竹刀の中心)を崩すことで、次の行動を強制的に誘導します。
払って誘導する
相手の竹刀を**「払う(はらう)」**動作は、誘導において非常に重要です。
払い面への誘導: 相手の竹刀を表(相手から見て左側)から小さく払います。相手は、自分の竹刀が中心から外されたことに驚き、慌てて竹刀を元の位置に戻そうとします。竹刀を戻すために手が上がった瞬間(小手が空いた瞬間)を狙い、小手を打ちます。
抑えて誘導する
相手の竹刀を上から**「抑える(おさえる)」**ことも有効な誘導手段です。
抑え面への誘導: 相手の剣先を上から軽く抑えつけます。相手は抑えられた状態から脱出しようと、竹刀を上に弾き返そうとします。この竹刀が上がったところを狙い、面を打ちます。
3. 誘導の極意:「誘われたふり」をさせない
誘導が成功するのは、「相手がこちらの意図に気づかずに打ってきたとき」に限られます。
自然な攻め: 誘導するための隙や動作が不自然であったり、露骨すぎたりすると、相手は「誘われている」と見破って打ってこないか、逆に別の部位を打ってきます。誘導は、日頃の攻めの中で、一瞬だけ生まれる自然な流れとして行う必要があります。
読み合いを制する: 誘導は、こちらの意図を相手に悟らせないための演技でもあります。相手が何に誘われやすいか(面が好きか、小手で応じる傾向があるかなど)を稽古や試合で読み取ることが、誘導を成功させるための最大のコツです。