剣道で相手の技を無力化する方法:攻防一致の「応じ技」
剣道において相手の技を無力化するとは、単に防具で受けて耐えることではなく、相手の攻撃の力を利用して無効化し、同時に反撃に転じることです。この技術は「応じ技(おうじわざ)」として体系化されており、「後の先(ごのせん)」の極意として特に重要視されます。
相手の技を無力化し、一本に繋げるための主要な方法と、その心構えを解説します。
1. 剣道の技を無力化する4つの主要な「応じ技」
相手の技を無力化する方法は、竹刀と体の使い方によって、大きく以下の4つに分類されます。
応じ技の種類 | 動作の概要 | 無力化のメカニズム |
抜き技 (ぬきわざ) | 体をわずかにかわして、相手に空を打たせる。 | 打突部位を軌道から外すことで、相手の技を無効化します。 |
返し技 (かえしわざ) | 相手の竹刀を受け流し、その勢いを逆手に利用して反対側に返す。 | 相手の力を吸収・転換し、反撃で無力化します。 |
すり上げ技 (すりあげわざ) | 自分の竹刀の鎬(しのぎ)を使い、相手の竹刀をこするように払いのけて軌道をずらす。 | 打突の軌道を物理的に変えることで無力化します。 |
打ち落とし技 (うちおとしわざ) | 相手の竹刀を上から叩き落として、打突の勢いを下へそらす。 | 相手の打ち込みの力を相殺し、打突を失敗させます。 |
2. 抜き技・返し技による無力化の実践
実戦で最も多く使われ、相手の技を無力化する効果が高い技です。
(1) 抜き技による無力化
相手の技が完成する前に、体捌きで打突部位を抜くことで無力化します。
面抜き胴: 相手の面打ちに対し、竹刀で受けずに体を右斜め前に開く(開き足)ことで、自分の面を軌道から外します。これにより、相手は空を打ち、完全に無力化された状態になります。この瞬間、がら空きになった相手の右胴を打ちます。
(2) 返し技による無力化
相手の竹刀の力を自分の竹刀で受け流し、反撃に繋げます。
面返し胴: 相手が勢いよく面に打ち込んできたのに対し、竹刀で受け止め、手首を柔らかく返してその勢いを真下に流し、右胴に打ち込みます。相手の技のエネルギーを逃がし、自らの打突エネルギーに転換することで、相手の攻撃を無力化します。
3. 竹刀操作による無力化のポイント
(3) すり上げ技による無力化
相手の竹刀の力を「いなす」ことで無力化します。
面すり上げ面: 相手が面に打ち込んできた瞬間、自分の竹刀の側面(鎬)を相手の竹刀に当て、斜め上にこすり上げて軌道をそらします。このとき、相手の竹刀は空へ逃げて無力化され、自分はそのまま面を打ち切ります。すり上げ動作と打突は一連の曲線で行うことが重要です。
(4) 打ち落とし技による無力化
相手の打突を力で潰して無力化します。
胴打ち落とし面: 相手が胴を打ちにきた瞬間、自分の竹刀を上から叩きつけるように打ち落とします。相手の竹刀が下に落ちて力が尽きた瞬間、空いた面を打ち込みます。
4. 最も重要な「無力化」の心構え:「攻め」
最も理想的な無力化は、そもそも相手に技を出させないことです。
「先々の先」で無力化: 相手が「打とう」と**動き出す直前の「起こり」を察知し、相手が技を出す前にこちらから打ち込む(出端技)**ことで、相手の技を未然に潰して無力化します。
中心を圧迫する「攻め」: 常に自分の剣先を相手の**正中線(中心)**に向け続け、プレッシャーをかけます。これにより、相手は心理的に打突の機会を見失い、思い切った技が出せなくなり、結果的に相手の攻撃力を無力化します。
相手の技を無力化する応じ技は、反射的な動作ではなく、「攻め」によって相手に打たせ、その打突を読んでから反撃するという、高度な洞察力と判断力が必要な技術です。